マルセロ・D2の新作がベゼーハ・ダ・シウヴァの作品集だと知った時、ボルテージ上がりました。それは、21世紀を生きるマランドロが20世紀を生きたマランドロに捧げるリスペクトに他ならないからです。
ベゼーハ・ダ・シウヴァさんは1927年、ペルナンブーコ生まれです。15歳の時裸一貫でリオに来た彼はファベーラにたどり着き、サンビスタとして名声を得た後も生涯そこを離れませんでした。裏山に暮らす人々の日常を愛情こめて唄いあげるマランドロの中のマランドロ、それがべゼーハ・ダ・シウヴァさんです。
ところで、日本の「マランドロ」は誰かと考えた時、僕の答えは「寅さん」なのですが、「ええ〜、違うんじゃない?」と言われる事が多いです。確かに「ダンス上手」「酒飲み」「暴れん坊」といったマランドロのアイコンと寅さんはイメージ違います(初期の寅さんはマランドロそのものですが)。
シウヴァさんが「俺はマランドロ、少々やっかいな男だぜ」と凄んでみせる時、それは女や子供を困らせるためではありません。彼が啖呵を切る相手は納得いかない社会であり、底辺の人々に偏見と憎悪の眼を向ける輩であり、権力をかざす者達なのです。しかし、右や左の活動家のように徒党を組んで立ち上がるわけではありません。そんな力も気もさらさらない事ぐらい、本人も周りもよく判っています。それでも困っている人、泣いている人を見ると手を差し伸べてしまうのがマランドロ。ね、寅さんでしょ?僕の考えるもう一人の和製マランドロ、植木等が唄う「金のないやつぁ俺んとこへ来い!俺もないけど心配すんな」の精神です。
マルセロさんはどうでしょう。両手のマイクを武器にファベーラを守るマルセロさん。かっこいいなあ。ちなみに、このジャケットの色使いとかのダサ加減は、シウヴァさんのLPジャケへのオマージュです。
2008年に出たシルヴァさんのトリビュート盤にも参加していたマルセロさん、今回はいぶし銀の名曲の数々を得意のヒップ・ホップ・サンバで現代風にアレンジか?と思いきや、なんと打ち込み・サンプル・ラップは一切無し!カヴァーというより完コピの、パゴージバンドによる直球サンバ、そしてこれが大正解、マランドロの粋です。ラッパーとしてのマルセロさんは最高だけど、サンビスタとしても一流です。男性ダンサーの皆さん、上から下まで白で決めただけじゃ、まだまだ「マランドロ」と言えませんよ。 |